灰色のおしながき

「幻燈街、鮮やかな小道の中そぞろ歩き至るは小さな古民家。薄ぼんやりと照らされたその情景は嘗て垣間見た白昼夢のような心地がして微睡むように溶けていった」

「錆びた言葉でお話しましょう」

「ケーキの上のろうそくを年齢の数立てる。歳を重ねるごとに殺めていった自分の一部を弔うかのように」

「能面がこちらを見つめている。テレビに目をやる。うたた寝をする。ストレッチする。能面がこちらを見つめている」

「紙飛行機、力いっぱい飛ばしたら、むしろ飛ばない」

「“最高”の個展。小さなありふれた最高が、すぐに忘れ去られてしまう哀れな最高が、作り物の最高が、どうしようもなく棚に並んでいる」

「神様がいようといまいとどちらでもいいよ。いなかったらそれまでだし、いてももう、どうせいろんな人の手垢にまみれちゃってるから」

「既製品のもので構成されたアイデンティティ」

「男女なんて関係ない。そう言ってより中性になろうとしているとする。それって、周りよりもずっとそれを意識していませんか」

「“サイハテへようこそ”と削り書きしてある立て看板はとうに朽ちかけていて、周囲の建物も元の姿を失っている。サイハテ、最果て。これ以上先がないのなら、ここをまた出発点にすればいい。果てから戻り戻り進む道にはきっと、今まで見てきた、たくさんの分岐点があるのだから」

「晴天、雲ひとつ見当たらない。さりとて予定もないが、どうにも動かずにはいられなかったので歩を進めた。なんだか公園でおにぎりが食べたい。予定がひとつできたみたいだ」

「失くしたと嘆いているものは本当に有ったのかい。いまあるものでさえ曖昧なのに」

「薪を焚べた。ぱちと燃え上がる火が妙に心地好い。神にも似た大いなるものが、手に持ったマシュマロと意識をとろかしていく。溶け落ちた白、覚醒する人間」

「白い毛糸のかたまりが、何故だか肉まんに見えた」

「風もない茹だるような夜、なんとなしに散歩に出た。明滅する街灯の下で名前も知らないつる性植物が、まるで手招きするかのように、自身の緑を仄めかして揺れていた」

「捨て置かれた廃材。校舎裏の秘密基地。とうに彩を失くした記憶。子どもたちのはしゃぐ声」

「断片的な台詞。そこに明確な前後の物語も登場人物も存在しないが、存在しないからこそいくらでも創り出すことができる」

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「こんにちは、せっかく来てくれたけどうちの店には何もないよ。全部が全部灰色になっちゃって、何もかもわからなくなった。……そういや、お客さんには色があるね。ゲーム感覚だって構いやしない。どうか、この場所にお客さんの色をつけてみてはくれないか。ええと確かあのへんにあれがあったはず。いま持ってくるから、ちょいと待ってておくれよ」

青叉です。

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