対話_1


夜、おおよそ二十一時の頃。暗く人気の少ない道を歩いていた。

道中、川沿いを通ったときに入ったのか靴の中に小石が動いていてどうしたものかと考えていたところ、少し先に頼りない灯があったので、そこで一休みして小石を取り出そうと思った。
ところが行ってみると、灯の照らす道の真ん中に小さなカマキリがおり、無遠慮に石を落とすことはできそうになかった。
「やあやあ、今晩は。どうやら先客がいたようですね」

「これはこれは人間殿。私は来るコンテストに備え、ポージングの練習をしているのだ。君は……、こんな時間にひとり散歩かい?」

「ええ、この頃、日中はまだ少し日差しのありますけれど、宵になると風も涼しく心地よくて。ついつい長いこと歩いてしまうのです。ところで、とても凛々しい立ち姿ですね。ひとつ写真を撮らせてはくれないでしょうか」

「構わないよ」

「ありがとう、ではさっそく。……おっと、ごめんなさい。少しぶれてしまいました。もう一枚撮っても?」

「ん、いいや、やめておこう。きっと君には上手く撮れないよ。私たちには充分な光でも、人間にとっては貧相な光の下だからね。そのカメラではピントを合わせるのも難しいだろう」

「そうかもしれないですね。ところで、そのコンテストとやらはいつあるんです?是非とも観覧したいのですが……」

「なに、いつだって開催できるさ。なんたってそれには私しか参加しないのだから」

「えっ、対戦相手のいない……。それはコンテスト、なんですか?ただの自己満足のような──」

「滑稽な自己満足だっていいじゃないか。それに対戦相手だってちゃんといる。一回前の自分と二回前の自分、そして三回前の自分。そういった以前までの自分と闘っているのだよ。彼らに負けないように自分を磨き、常に良い状態であろうとしているのだ。無論、負けてしまうこともあるが、そのときは過去の自分にどうすればより良かったのかを教えてもらうのさ」

「そうなんですね、失礼しました。独り開催で、負けることもあるってことは、自分があまり良い状態でないということもきちんと分析して受け入れているのですね。凡庸な表現しかできないですけれど、なんだかすごくかっこいいです。自分のネガティブな面とかを目を逸らさずに受け止めるのは勇気のいることだと思うから」

「それはどうも、素直に他を尊敬できる君もとても素敵だ。ところで、こんなにも長く話し込んでいるが大丈夫かい?人間は私たちよりも長い時間を生きられるけれど、それでも時間は貴重だろう?」
「ああ、もう結構経っていたのですね。確かにそろそろ帰宅した方が良さそうです」
「そうだろう。君のような人に見てもらえて嬉しかったよ。楽しい時間をありがとう。では、またいずれ今日のような夜に会おうじゃないか」
「こちらこそ。では、またいつか」

少し歩き、小石をからんころんと落としたのちに振り返るとカマキリはいなく、ぽつねんとした灯がスポットライトのように夜を照らしていた。


青叉です。

せいかつをしています。